Author Archives: nakagawa

大切なアクセサリー

大切なアクセサリー


春も終盤、陽の光が豊かになるにつれ、周りの花も木々も生き物全てが、まぶしいエネルギーに包まれて、力強い呼吸を始めたような季節が始まりました。
その魅力的な季節に誘われるように、友人と近くの公園に出かけてみました。
うらうらとしたお天気に、歩きながらの他愛のないおしゃべりがとめどなく続きます。その光の中、友人の耳にあるダイアのピアスがあまりに美しく、小さいながらその存在感の確かさに、なんだかとても気になってしばらく見とれてしまいました。彼女が笑うと石も笑ってキラキラと光り、髪をかき上げるとチラチラと揺れて、私との話の流れで『ううん、ちがうのよ・・』と首を振るとそのリズム通りサヤサヤと揺れてみせます。思わず「きれいなピアスね!」と言うと、『えっ?これ?ウフフ自分へのご褒美のピアスよ、お仕事の20周年記念に買ったの。』とニコリと微笑みます。彼女は結婚もせず一人で頑張ってきたワ―キングウーマン、その静かな物言いの中に彼女の自信とプライドが光って、彼女自身までまぶしく見えた瞬間でした。

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私事で恐縮ですが、実は私にも20周年記念のピアスがあります。「子育ての一段落の区切り」と称して、下の息子が二十歳になったときに彼女と同じように「自分にご褒美」として求めました。1
大粒のパールですが、耳たぶの下先にぴたりと付くようにデザインをお願いしました。テレビで芸能人のピアスを見ていいなと思って作りました。大事な記念の品ですがその理由のために少しミーハーな印象がまとい付く品です。

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ピアスといえば、私は旅先で思い出として求めるピアスもあります。いくつかのお気に入りをお見せします。
こちらはビーズの靴をかたどったアメリカインディアンの手作りのピアスです。2カナダとの国境近くで見つけました。これをしていると「かわいいね!」と褒められることが多い大好きなピアスです。Jジャンでもセーターでも何でも似合うので重宝してよく使います。

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こちらはベネツィアのベッキオ橋のお店で買った品です。3とても気に入りましたが、買うのを迷って2日考えた品です。2日ぶりにそのお店に顔を出して「Do you remember me?」と私が恐る恐る言うと「Of course!!」とそこのハンサムなオーナーがニコニコと両手を広げて私を迎えました。ひょっとしたら抱きしめられるのではないかと・・思いましたが!残念ながらそのようなラブロマンスはありませんでした。彼からは美しいクリスマスカードが毎年届きます。西洋でも日本でも同じようにトンボは縁起のいい生き物だそうです。まっすぐ前に向かって飛び、決して後ずさりをしない潔さが、日本では武士の精神性と重ねて珍重されたと聞きます。だから仕事での勝負アクセサリーです。これをしていれば安心というお守りになっております。

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こちらはスワロスキーのような光る石のピアスです。4パリのルーブルの地下のショッピングストリートで見つけました。日本で使っているうちに石がぽろぽろと落ちてきましたがお気に入りなので、同じような石を買って自分で修理して使っています。鏡に映すとシャラシャラと音を立てたように光る輝きが美しいので、さすがパリ! といつも心の中で喝采します。付ければ私の耳にシャンソンが聞こえてくるような一品です。

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最後にこちらをご覧に入れます。5二つの石がつながったデザインになるようにリフォームした品です。上の石は耳に穴を開けて初めて求めた、雫の形が可愛いいピアスでした。下の石は大切な人から頂いたピアスです。どちらも同じようなデザインでしたので、リフォームをしてこのような形にしました。このピアスが出来上がったときに、リフォームのお店の方から「とても素晴らしいものになりました!」と渡された時の一言がうれしくて、いまだにその時のワクワク感を思い出します。大切な人の心と私の石が一緒に揺れているのを見れば、愛おしくなる私のとっておきの宝物です。だからもったいなくてあまり付けません。見ればその人のことを懐かしく思い出し、切ない思いでいっぱいになります。

アクセサリーの中には思い出を秘めた品、大切な人から頂いた品、運を担ぐ品、付けるとその大切な時を思い出す品など、曰くのある品は女性ならばどなたでも一つ二つはお持ちだと思います。
その幸せの証として身を飾るアクセサリーを求める、晴れ晴れしい時が果たして私の未来に待っているのでしょうか?その思いのたけを忘れないように、リングのそれにそっと指先の幸せをともして、耳たぶに希望の光を揺らして・・・、そんな人生を動かすほどの時が待っているならば・・・嗚呼!ゼッタイ頑張るのになぁ、ワタシ。

40度の気温差の旅

40度の気温差の旅


三月の声を聴くと、空の色さえ冬の厳しい色から、表情を緩めたような柔らかい色に変わってきます、いよいよ春がそこまでやってきているようです。我が家のベランダの枝垂れ桜には、淡いピンクの花びらが幾重にもたたまれているような、ぽっちりと膨らんだ蕾が付き始めました。春はなんだか楽しい時が近づいてくるようなソワソワとしてしまう不思議な季節ですね。
しばらくぶりのエッセイなので出張旅行をした時の、写真をお見せしたいと思います。

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青森県平川市の南田温泉にあるアップルランドというホテルに泊まりました。遠くからでもその存在が確認できる大きな「リンゴ観音様」が屋上に立っていらしてびっくり!アメリカの「自由の女神」のように左手に高々と掲げているのは「トーチカ」ならず「リンゴ」でした。1
お風呂には100個くらいリンゴが浮いていてリンゴのあまーい香りがお風呂中に満ちていました。(夕食前の早い時間でお風呂には私一人、ヒマだったので…ちゃんとリンゴの数を数えました。)

京都のディナーは瀟洒なレストランでした。高台寺の隣のいかめしい門を入ると日本画家の竹内栖鳳の旧邸宅を利用したレストランの「ソドー」。窓からは夕暮れに立つ八坂の塔がすぐそこに見える絶景!2京都在住の方も声を上げるほどの近さでした。実はこの日は旭川、那覇、京都と気温差40度の日本縦断旅の最終日でしたので、気も緩みがち、ニコニコと仕事の神様に感謝しきりの顔になっております。
翌日は夕方まで大徳寺のあたりをぶらぶらと散策しました。途中で尾形光琳、乾山の菩提寺を見つけて、「へぇ~」という感じで一応写真に収めました。3大徳寺は何度も尋ねておりますが、中でも高桐院というお寺が好きでお庭をぼーっと見ながら30分ただただ座っておりました。紅葉も若葉もいいのですが、今回は雪があって早春の風情がひとしおでした。45

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箱根、伊豆長岡にも参りました。こちらは仕事ではなく高校時代の友人と「小さなクラス会」という旅でした。当然のことながら全員静岡出身という事情が効いたのか?
富士山のご機嫌がすこぶるよくて、全てを包み隠さず見せてくれました。6
宝永山という、富士山中腹にある「おでき」のようなでっぱりが見えないのは淋しかったのですが、(静岡側から見えます)皆でうわーと声を上げて久しぶりの富士山との対面を喜びました。お山を見ながら我高校の恒例行事の富士登山の話に花が咲きました。
このメンバーの一人で背が高く体も大きい、当時は相当のバリバリ体育会系の若者だった男子が先生の命令で高山病の女子生徒をおぶって下山した「死ぬかと思った富士登山!エピソード」には聞くは笑い語るは涙の話になり、大うけでした。
その夜は西武の堤さんの別邸、広大なお庭の旅館に宿泊しました。7とにかく広いので迷うことばかりで、方向音痴の私は最後まで一人では自分のお部屋に帰れませんでした。お部屋は女子3人で日本間、洋間、化粧部屋、玄関間などいくつもあり8、絹のお布団9の中にもぐって修学旅行の再来にしてはちょっと贅沢な夜を過ごしました。

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私の拙い写真のいくつかをお見せしましたが、旅が私の仕事です。この冬の数か月はまるで呼び寄せられるように十数回東北に参りました。降車駅のホームに最初の一歩を踏み下ろすと、キーンと研ぎ澄まされたような冷気に、慌ててオーバーの襟を掻き合わせ、チラチラとほほに冷たい感覚・・・!見上げれば鉛色の空からは容赦なく雪が肩に頭に降りかかってまいります。
かと思えば、那覇に降り立てば人々のアロハシャツがまぶしくて「ここは何?天国?」と戸惑うほど、鮮やかな色のブーゲンビリアが出迎え、空は明るいブルー風は温かく優しくほほを撫でていきます。
日本は美しい国。同じ時が回っていても全く違う風土、景色、人々。
春の桜の蕾も、東北の雪も、ブーゲンビリアも、八坂の塔も人生の中で出会う忘れがたい思い出です。出会う時々にこの平和を、この小さな幸せの数々がずっと続くことを願わずにはいられません。

昨日、映画『この世界の片隅に』を見ました・・・・。

バレンタイン2017 - 袋のラッピング

バレンタイン2017 – 袋のラッピング


2017年バレンタイン第2弾は、袋を使ったラッピングを2つご紹介します。
1つは中身の大きさに合わせてペーパーバッグを手づくりする方法。
もう1つは、不織布の袋を使ってかわいくラッピングする方法です。

クリスマスリース2016 -ネクタイ編

クリスマスリース2016 – ネクタイ編


2016年クリスマスラッピング第二弾は<ネクタイ編>。ネクタイをプレゼントとして贈る時に、ちょっと相手を驚かせるような可愛いラッピング方法をご紹介します!
クリスマスにかかわらず、彼のお誕生日プレゼントとか父の日とかにも応用してみてください。

写真

写真


歳の瀬が近付くと、徐々に加速度を増すようにせわしく、忙しくなってまいります。
私は例年のごとく、ハードなスケジュールに翻弄される毎日で、ウイークエンド以外はほとんど出張に出ております。そのような中でこのエッセイ原稿の締め切りを迎え、あたふたと考えた挙句、エッセイで使うために撮りためた写真の中で、日の目を見ずにそのまま携帯の中で眠っている数枚をご披露しようと思い立ちました。

子供

3歳~5歳の子供たちにおむすびを作って食べさせました。わいわい言いながら食べてすぐ遊びに行ってしまった後に、お皿を片付けようとしたらこのようなかわいい子がぽつんとお皿に残されていました。大人にはマネのできない壮大な創作へのエネルギー?思わずウフフと笑ってしまいました。

花の絨毯

何年かぶりに段通の絨毯を出して敷いてみました。花の模様がうるさい感じがしてあまり好きになれずに長い間「御蔵」になっていたのですが…、久しぶりに敷いてみたらそんなに変じゃないなー。思い込みってひどいですね。季節は春!心も明るい華やかさを求めていたのかな?

大切な人

春の日差しの中で可愛い花たちが笑っています。この20年の間、毎年私のお誕生日にこのような素敵なお花を送ってくださる方がいらっしゃいます。彼女は札幌に住む私のお仕事仲間です。なれそめは私が彼女にラッピングをお教えした事です。今の彼女があるのは彼女の努力の賜なのに・・・、恩に思っていただき光栄です。私の大切なお仲間です。

九州の嬉野温泉にある「ハミルトン宇礼志野」

嬉野温泉のお湯はphが高いのか、お肌がツルツルになり素晴らしい温泉です。たまたま雑誌で見つけたこのホテルは素晴らしかったです!シルバーエイジの特別代金でお安く宿泊できました。

登別温泉望楼のぐち

インテリアも素敵でしたが、お湯がかけ流しで絶えず流れていてさわさわとその音が浴室を開けると聞こえてきて、その音に誘われるように何度もお風呂に入ってしまいました。窓から緑が豊かに見えて素晴らしいホテルでした。


竜ケ崎鉄道のコロッケ

茨城県の河内町にお仕事に行く途中、竜ケ崎鉄道に乗りました。とっても短い鉄道で駅は最初と終点も含めて3つ、ということは途中1個しか駅がありません。その電車に乗ったら、
「何?これ???・・・」
コロッケらしきものが吊革にもれなくついています。降りるまで訳が分からなく乗っておりましたが。後からお聞きしたら、コロッケで一度「全国一位」になったのでこれで町おこしということらしいです。それにしてもすごいアイデア!電車にコロッケなんて!発想が豊かですね。
帰りにコロッケを買いましたが、ミンチでなく薄切りの牛肉がちゃんと入っていて中々ボリューミーなお味でした。

真田幸村の紅葉

去年の写真で心苦しいですが、信州上田城の紅葉は一年たった今でも忘れられない程の景色でした。今を時めく幸村もまだ人気に火が付く前でしたので、ゆっくりとお城を見て回りました。小さいお城でしたが紅葉の美しさは格別のものがありました。

今年は、地震、水害、台風など天災があり心が痛む事が多くありました。
世の中の流れも不穏なにおいがして、日本人が大切に守ってきた平和も大丈夫なのかと不安になるときもあります。
今年もあと残すところ2か月、新しい年を迎える準備をしなければいけませんね。
にこにこと笑っていられるいい年になりますように、祈るだけです。

クリスマスリース2016 - ペパナフラワーを使って

クリスマスリース2016 – ペパナフラワーを使って


10月と12月はクリスマスに使えるラッピングをお届けします。まずはクリスマスリース2016年版。
これまでにも色々なリースの作り方をご紹介しましたが、今回はペパナフラワーを使ったクリスマスリースです。

すべて暑さのせい?

すべて暑さのせい?


暑さ寒さも彼岸までという言葉がありますが、今年の夏は8月の末になってもまだ、うだるような暑さが続いております。あまりに暑いと普通の思考ができなくなるのでしょうか?私の周りには思わぬ事態(?)が出来しております。

出張の朝、電車に乗ったときのことです。
ラッシュの時間よりは幾分早い時間でしたのでひどいラッシュではありませんでしたが、それでも入り口まで人が立っているような状態でした。車両の中の方は案外空いていたので、乗り込もうとすると入り口に立っている若い女性が、乗せまいとするように体を押し返してきます。発車合図の音楽がすでに流れているときでしたので無理に乗ってしまいました。彼女が1歩だけ後ろに下がってくれたら、楽に気持ちよく乗ることができたのに、この人はどうしてこんなにも理不尽に頑張っているのかなー?と思いました。
私は次の駅で降りるので、そのまま閉まった扉とそのまま一歩も下がらない彼女に挟まれたような形で電車に揺られました。ところが、その間、彼女は自分のバッグで私の体を扉にぐりぐりと押しつけてくるのです。それは電車の動きとは連動していない故意の動きだとすぐにわかりました。次の駅で扉があいた途端、私は彼女に突き飛ばされてホームに転げ落ちました。あまりのひどい行為に後ろを振り返ったら私を横目でにらみながら『ふん!』という感じで足早に去っていきました。
よほど私が乗り込んできたのが癪に障ったのでしょうね。若くて、可愛い女性なのに残念です。私も気分が悪い、いやな朝になってしまいましたが、あのようなことに及んだ彼女の方はもっと気分が悪いだろうなと感じました。私が一言『よろしいですか?』と言えばよかったのかもしれませんが発車間際のことで、その余裕がありませんでした。暑さのせいにするのはちょっと気が引けますが、何だか心が殺伐としてしまいますね。

我が家には89歳の母がおります。台所にも立つし、趣味のセミナーにもおしゃれをして一人で出かけていくし、年齢の割には元気でいてくれます。ところが最近耳が遠くなってきてほとほと困っております。
周りの人間はまだこの状態に慣れていないので、いつもの調子で話しかけてしまいますが、本人には届きません。これが当の本人はもちろんのことですが、私たちにもたいへんなストレスになっております。
「何故、無視するのかしら?あ~そうかぁ聞こえないんだ」
「また『えっ?なーに?』って言っている・・・あーあ」
「大きな声で話しかけるのにエネルギーがいる・・・・」など、
殆どが私のわがままからのストレスだとわかっております。。

当然言葉数が少なくなりますし、何度も聞き返されると面倒くさくなってしまいます。
淋しいことに、今までのようなコミュニケーションができなくなっているのが現状です。
丁寧にしっかりと受け答えをしてあげれば、もっと意思の疎通は改善されるのは分かっていますが、母に対する甘えもあり、日常の些細なことの積み重ねなので、つい自分のわがままを許してしまいます。
オリンピックで「金メダル!とったよ!すごいね。」とちょっと離れている母に私が叫んでいても、何にも乗ってこない。ノリが悪いなーと思っていると、しばらくしてからテレビの字幕を見て『すごいねー金メダルだって!!』といわれると、心の底から淋しくがっかりしてしまいます。

現実と向き合いたくない、母の老いを認めたくない、今までと同じようにしていたいという「私」がそこにいるのですが、実は母の老いと真剣に向き合う時が目の前に来ているのです。

これではいけないと毎日、毎日自分を叱っています。
大切な母と分かっているのに、本当にダメな娘です・・・。
だからすごいストレス・・
というような情けない状態の上に、お仕事が山積み、その上暑さに追い打ちをかけられて、今はムリなの、できないの‥と、ぶちぶちとすべて夏の暑さのせいにして、今日も良心の神様に向かって言い訳ばかりしています。

これではだめですよね。
ヨシ!
秋の涼風が吹くころには心機一転!がんばろう!
電車の中も心地よく、そして母とは仕切り直しの笑顔のコミュニケーションができるようになっていることを・・・・・・ゼッタイ、ゼッタイ誓います!

このエッセイを書き終えて数日後、新潟に行ってまいりました。
台風一過の青空の下には見渡す限りの越後平野がひろがっていました。稲は実りの時を迎え、頭を深く垂れその上を渡る風が稲穂を大きくうねらせ金色に輝く波のようになったとき私の心の中には、あの誓いと共に母の笑顔が広がりました。

秋はもうすぐそこまで来ていると感じました。

空想の翼

空想の翼


気が付けば梅雨の鬱陶しい曇天が広がる6月も終わり、明日からは7月です。あじさいの花も季節の移ろいに心なしか色あせて見えます。あと2週間もすれば、いや応なしに真夏の太陽がぎらぎらと照り付ける季節がやってまいります。

学生時代は夏休みが始まれば、楽しみが山のようにあり、あれこれと遊びのスケジュールを画策したものでした。でも考えてみると毎年の夏休みすべてが浮かれていたわけではなく、受験の夏休みもあったなーなどと、ぼんやりと大昔のことを思い出しております。
「ここが決戦の時!」だとか、「今こそ死んだ気で頑張れ!」などと学校の先生に叱咤激励されているにもかかわらず、本人は先生や親の意思などお構いなく、どこ吹く風。
対岸の火事のように親たちの騒ぎを見つつ、気持ちはとてものんびりとしておりました。
でも、さすがに夏休みの遊びのスケジュールは皆無で、親の手前もあり、机の前には形ばかりですが毎日律義に座っておりました。
でも、ややもすれば、ぼーっとして近所に住む子供たちの遊ぶ声を聴きながら、空想の世界をさまようのが、「死んだ気」も「決戦の機会」も全く自覚のない私の夏休みの受験勉強であったと記憶しておりますが、その勉強よりは断然楽しかった空想は、本当に他愛のない内容でした。

誰もいないエメラルドグリーンの海に浮かぶ小島、白い砂浜のヤシの木陰で長椅子に寝そべりながら、受験問題集ではなく、大好きな恋愛小説と漫画を山積みにして読みふける私。海風がそよそよと吹く中で、やがてウトウトと心地よい眠りにつき。美しい景色の中で絵になったらタメ息が出るようなお昼寝。ふと気が付くと、どこからか白い制服を着たサーバントが現れて「お嬢様、おいしいお食事をお持ちしました。」と、目の前のテーブルにはあふれるばかりのごちそうの山。「パイナップルジュースは?」と眠たげな私が問うと、ジュースはいつの間にか私の手の中に。とろりと甘くそして冷たーいフルーツそのもののジュース!!
あーこんな島に行きたい!1時間でいいから行きたい!
果てしない空想は続きます。
食べきれないほどのごちそうをいただいた後、満腹のお腹をさすりながら恋物語のページを再び繰ると、空想はいつか夢の中のそのまた夢に入っていきます。

時は戦国時代、私は囚われの身の絶世の美人のお姫様。今まさに姫の兄上が姫を救わんとして囚われている城に戦を仕掛けてきた。城の外も内も戦の火の手が上がり落城寸前。その混乱のさなか、姫が迎えを待つ人はただ一人。幼いころから姫の守役として一緒に兄妹のように育てられた「総司郎」という凛々しい若武者であった。ところがこの主従、いつしか身分を超えた許されぬ恋に密かに身を焦がすようになっていた。今や愛しい人と引き裂かれ身も心も狂わんばかりに「必ずやあの者が助け出してくれる。」と一途に信じている姫。
そこにこの城の主が登場、(若くて頭脳明晰、青い眼をした外人風のこれまたイケメン城主!はっきり言ってありえない!でもいいの!)姫をむんずと捕まえて、「さあ美しい栄里姫よ!落城寸前の城を捨ててこの抜け穴を使い、私と城から落ちようぞ!」と迫る。栄里姫しばし、その怪しい魅力にとろりと負けそうになるが!!!そこへ鬼気迫る迫力で総司郎が登場「ひい様!」「総司郎!」呼び合う二人。単身乗り込んできた総司郎が丁々発止と敵と斬り合いの末、やっと取り戻した姫をひしと胸に掻き抱き・・

その後の顛末はあまりに複雑な人間関係ゆえ、考えないようにして「いいなぁー、受験生だけど(この一言が泣かせる・・この現実からはどうしても抜け出せないのである。)今ここに、こんな素敵な総司郎があらわれたらどうしよう・・?駄目だわ、絶世の美人のはずなのにニキビがいっぱい」などと鏡を見ながら独り言。あの迫力ある城内のシーンから一挙にエメラルドグリーンの海の島も飛び越えて、フラフラと空想の翼をたたむように現実の世界に戻ります。しかし、夢見る瞳は参考書の文字は未だに追わず、ハートの形になったまま総司郎のイメージを追いながら、ただぼーっと時間が過ぎていく。(久しぶりに総司郎!思い出しました!この若武者はティーンエイジャーだった私の空想の中で必ず出てくるヒーローでした。)
何と能天気な受験生。お恥ずかしい限り!
私がこんなことを空想している間に受験のライバルたちは決戦の時とばかりに、しこしこと受験テクニックを磨いていたに違いありませんね・・・
いつもこのような物語が頭の中でぐるぐると浮かんでいた私は、空想好きで夢見がちな少女でした。
時が流れて・・・
やがて大人の扉を開けた私は、空想の世界に飛び立つことも無く、「しがらみ」と「やらねばならぬ」という鎖に縛られて忙しい時を過ごしているように見えます。が、今でも心の隅で「現実から離れてぼーっとした空想の時間もほしいよね。あの翼を広げたいなー。と、」しばしば考えます。

突然ですが、現実の目の前の景色です。12
今日の私の机の上には、PCとラッピングの資料と明日の講座に使用する風呂敷と、テキスト改訂のための多数の紙と箱が積んであります。いまさら総司郎とは申しませんが、ごちそうと冷たいパイナップルジュースのあの島はかけらもなくなっているように見えます。
でも、この絵ハガキをご覧あれ!「パイナップルジュースのあの島」に似た絵ハガキです。34詳しいことは忘れましたが、これは10年以上前に友達が宮古島の旅から送ってきてくれたものです。これを見たとたん、あのエメラルドグリーンの海に囲まれている空想の小島を思い出して、すぐ目の前の壁に貼り付けました。そして、心が折れそうなとき、疲れていやになったときにこの写真に目をやります。
これを見るといやなことも忘れて、うっとりと心のセリフ・・・
「あーあ!いつかこんな島に好きな本をたくさん持って行って、長椅子に寝ながらのんびりと1週間だけ、過ごせたらなー。」と。
全く成長していないのが、お恥ずかしい限り!トホホ。そしてちょっとだけ元気になるのです。心に温かい火がぽっと灯るように、です

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空想することにより、それでほんの一瞬でも心が慰められればしめたもの、お金もいらない、自由に出たり入ったり、しかめ面が簡単にニンマリ顔になるかもしれません。若いころ得意だったけれども、どこかに忘れてきた空想の翼を探してみるのも、オツなものかもしれません。

かの島の涼しい風に吹かれて、波のやさしい音を聞きながら、やがてまどろむ私に、「ひい様・・・」という聞き覚えのある声、目を開ければ・・・そこには懐かしい総司郎。
「総司郎!久しぶりね。あなたのことを忘れていたわけでないのよ、大人になっちゃって余裕がなかっただけなの、許してね。」
じっと見つめあう二人・・・
「あら、いやだわ、総司郎ったら手に持っているのは、パイナップルジュース…?」
(まあいいでしょう。許してください。空想なんですから。)
久しぶりに永遠のヒーローと夢の世界を飛んでみるのも悪くないですね!