ラッピングコーディネーター 五味栄里先生によるラッピング講座。リボンの結び方、箱の包み方、季節に合わせたラッピングやエッセイなど

夫婦の老後


先日、珍しい方からのお電話を頂きました。その方は子供の幼稚園でご一緒に役員をした古くからの友人で、元女優さん、透き通った声の知的な美人です。
彼女のお子様は年長、年少、乳飲み子と3人いらして、ご主人様はテレビに出ていらした俳優さんでした。この美男美女のお二人は幼稚園の行事などでも、ひときわ目立つ、仲の良い素敵なカップルでした。ところが、彼女と知り合って1~2年後にご主人様は病に臥せられ、半年ばかりでお亡くなりになってしまいました。
まだお若いし、あまりの事の成り行きに周りにおりました私たちは、掛ける言葉もないありさまでした。3人の幼い子供を抱えて、それからの彼女のご苦労は大変なものだったと思います。それも今は遠い昔の話となりました。彼女は立派に女手一つで子供たちを育て、この夏にはご長男が彼女と一緒に住む新しい家を立ててくれるとのこと。親孝行の息子家族と幸せな老後を迎えようとしています。

そのような彼女からの第一声は「五味栄里は、げんき?」という、いつもの言葉でした。
近況報告やら、共通の友人の音沙汰やらと積もる話もいっぱいあり、あっという間に時がたち、話も一段落した時に。
彼女「テレビコマーシャルで、熟年夫婦二人の生活をホンワリと映して、老後仕様の洗濯機や炊飯器の家電の宣伝を最近よくやっているでしょう、見たことある?」
私 「うん、あるある、ご主人が一緒に洗濯干しているよね。それと二人でキッチンに立って仲良くお料理しているのも見たよ。熟年夫婦なのに、新婚みたいに仲良くしているよね。」
彼女「あれ、どう思う?」
私 「うん、夫婦二人の幸せな老後を見せつけられているみたいで、私は何だかね~って感じ」
彼女「やっぱり、あなたも?あれ見ているとむかむかしてくる!奥様が一人で洗濯物ぐらい干せばいいじゃないねー。あんなこと二人でやらなくてもねー。」
私 「本当!おっしゃる通り!」

私も彼女と同じような境遇の人生を過ごしてきているので、彼女の気持ちが痛いほどわかります。この世には男と女しかいないのに、運悪く相手にはぐれて、今までもそしてこの後の老後も一人で歩いていく身には、あのCMは羨ましくて見ているとつらくなるのです。
彼女には一緒に住んで下さる息子さんがいますが、それとこれとは違います。
お恥ずかしいけれど私たちはあんな夢のような世界に住んでいる夫婦を見ると、つい気持ちがクルリと裏返り、我が身の寂しさを認めたくなくてこのような言葉になってしまうのです。まだまだ修行が足りないようです。
しかし、実際に夫婦の老後はあんなに「ほんわり甘い」ものなのでしょうか?仕事先のショッピングモールでウイークデイの昼下がりには、少々疲れ気味の定年後らしき男たちをよく見かけます。彼らの多くはやたらと元気な妻の買い物に付いて歩き、昼になれば夫婦でランチのトレイを持ってフードコートのテーブルに付きます。
しかし、男たちはひっきりなしに、しゃべりかけてくる妻に、殆ど無反応で下を向いたまま黙ってランチのラーメンをすすります。二人のすれちがう空しい時間が過ぎて食べ終わった後に、妻はあらぬ方向をぼっーと見ているご主人に「ほら行くわよ」の一言。
「上官」の命令に無言でのろのろと立ち上がり、大量のお荷物を持って後ろからついていくシーンは、まさに「哀愁のショッピングセンター」と名付けたくなります。
定年までバリバリと働いていた人が、「悠悠自適」をやっと獲得したはずなのに、精気のない不愛想な時間に、どっぷり身を置いてしまっているのをなんだか残念な、納得できないような気持ちで私は彼らを見送ります。

第一線から退いた老後は長い・・それを悔いなく生きていくのは大変です。
残された時間を何の感動も無く無為に過ごしてしまうのは、あまりにもったいないと思います。神様が下さった老後という「人生のご褒美」の時間が、楽しく輝いていなければ今まで一生懸命生きてきた自分に、申し訳ないと思います。
仕事を退職した男たちは違うことを求めているのに。妻たちもそのような男たちを、半分持て余しているのかもしれません。妻たちも自分が考えていた老後とはかけ離れた時間を不愛想な夫と共に過ごすのは不本意に違いないのでしょう。

ふと、このようなことを思いつきました。
隣にいる人生の伴侶を再度しみじみと見直してみたらいかがでしょう。
お互い歳を取り、しわも増えたけれど、縁あって長きにわたり共に歩いてきたベターハーフ、二人で育てた子供も巣立ち、会社の同僚もいない今、二人しかいないこの家でお互いの存在が当たり前で重大なことに気が付くのではないのかと思います。
小さな思いやり、優しい言葉、相手の笑顔、何気ない抱擁。そのような小さな生きがいを日々の日常の中から見つけていくことから始めれば、案外そこに不愛想から遠のく「ホンワリ甘い」老後の過ごし方の解答が隠れているのかも・・・

そう、あのCMの世界にお話が戻ってきてしまいました!
CMの中に凝縮されている、このありふれた何気ない日常こそ夫婦の幸せの原点なのでは?と感じます。「独り身の人がわかった風な口を利くんじゃないよ。」と、お叱りも受けそうですが。
寂しさをいやというほど味わっている私だからこその意見だとご容赦ください。

縁あって結ばれた二人が今、生きてここにいるのですから、これから歩んでいくその終わりをお互いの愛情の中で紡いでいくのが夫婦の最終の幸せだし、お互いへの義務だと思います。
老後を一人で過ごすのは寂しいことです。
いつか一人になった時に初めて、二人でいられたこと「その幸せの尊さ」に愕然とすることが無いように、人生の伴侶を大切に。
そして素敵な老後を見つけてください。

と、書き終えて・・沈丁花がかすかに香る、ただただ寂しい春の宵。