ラッピングコーディネーター 五味栄里先生によるラッピング講座。リボンの結び方、箱の包み方、季節に合わせたラッピングやエッセイなど

素敵な人


素敵な人…どのようなイメージを持ちますか?
私の思う素敵な人は・・笑顔が忘れられなくなる人。
その人を深くは知らなくてもその笑顔だけで,惹きつけられてしまう事ってありませんか?

1年ほど前のある団体のパーティーでのお話です。
出席者の年齢層は様々だったのですが、男性が多いのでどうしても堅苦しい感じになり 「早くここから抜け出したいなー。」などと考えておりました。
面識のある方はごくわずかだったので所在ないのとつまらないのとで、ため息交じりにぼんやりと人々を眺めていると、そこだけ異空間と思えるほど雰囲気が際立って違う人を見つけました。
その人は表情の乏しいダークスーツの男性陣の中でとにかく笑顔を絶やさないのです。
笑顔があるか無いかでこんなにその人自身の雰囲気やオーラが違ってしまうんだと、周りのブラックホールに引き込まれないその明るいさわやかな笑顔に見とれてしまいました。

しばらく失礼にならないように、そっと見つめていると・・それが実に良い笑顔なのです。
相手の目を見ながら笑う、
覗き込んで大笑いしている
優しくほほ笑む、
頷きながらニコッとする、
ちょっと表情が変わると、またすぐ笑う。
その自然な笑いのお蔭で癒されるような雰囲気が周りの方たちにも広がり、彼を中心にその一団はとても楽しい雰囲気にあふれていました。

何だかぼーっとそのまま見とれていました。
すると、偶然にも私の知人が彼と話しを始めたので、私も自然にその会話の中に入ってお話をするようになりました。
ここで非常に由々しきことが・・・・
私が・・この私が周りの方たちとお話をしながらも、その笑顔が気になって、どうしても彼から目が離せないのです。内心こんなに何回も見ていたらヘンに思われちゃうぞと、自分に警告を発しても、どうにもならない!どうしよう・・・
それからいくばくかの時間が経過していく中で、とうとう彼の目が言葉ではなくて「どうかしたのですか?」と訝しげな表情をたたえて無言で私に聞いてくるようになってしまいました。
何も答えられない私はただ、あわてて目をそらすしかありません。

周りのさんざめく話し声の中で、私たちは何度もお互いの視線が外せないまま、向こう側とこちら側で長い間見つめ合いました。
そのような不穏な(?)状況の中でも彼の笑顔は飛び切り優しくて、その視線が「困りましたね、あなたには惨りましたよ。」と言ってくるのです。
このような経験はもちろん初めてで胸が柔らかく高鳴るのです、それは決して激しいものではなく心が徐々に満たされるような美しい時間でした。

やがてパーティーがお開きになり、後に予定が入っていた私は、人に促されて席を立ちました。会場を後にしながら自分の「想い」のやり場に困り、ほとほと途方にくれました。でも無情な別れは容赦ありません。後ろ髪をひかれる思いの中で、心がジンジンときしむ音を立てているのに、意気地なしの私は振り返ることも怖くてできません。
すると知人が、彼と最初に話し始めた人です。
「あっ忘れてた!彼に挨拶してくるね。」と踵をかえしたのです。
私の返事は一も二も無く「私も一緒に行く。」でした。

「今日は楽しかったです。」
「来年またお目にかかれますか?」
ほんの一言二言でした。
このような会話をしながら最後に握手をしました。
彼が私の目をまっすぐ見ながら、すでに会話が終わっているのに、私の手を離さずにいつまでも強く握っていたあの感触はまだ焼きつくようにこの手のひらに残っております。

今、1年がたち、この手の上に再び同じパーティーの案内状があります。
行くべきか‥どうしようか
行って、彼がいなかったら・・・
袖触れ合うという言葉に嫋嫋たる思いを載せて、袖が引きちぎられそうに、絡んでもつれたら、それも幸せ。
梅雨の重苦しい空の下、思いは千々に乱れます