ラッピングコーディネーター 五味栄里先生によるラッピング講座。リボンの結び方、箱の包み方、季節に合わせたラッピングやエッセイなど

引っ越し


学生時代の友人から、筑波にお引っ越しをしたと連絡を受けて、先日そのご新居をおたずねしてみました。
彼女はそれまでは、百合ヶ丘に近い広いマンションにご主人様と住んでいらっしゃいました。いわば人も羨む悠々自適というライフスタイルです。内心、遠い筑波にお引っ越しなんて、何かのっぴきならない重大な事情があったのかと心配でいっぱいでした。

さて、その理由は、現在筑波に住んでいる3人のお嬢様の近くに移り、お小さいお孫さんたちの面倒を見て,家事などお嬢様の助けになりたいという事でした。ご新居は、駅の隣のマンションで11階のお部屋でした。お部屋はコンパクトにまとまり余分な物がなく、インテリアも白木の家具にリネンのテーブルクロス『ネイチャー&シンプル』で彼女そのもののテイストでした。
見晴らしの良いベランダに出ると、さえぎる建物などは一切無く眼前にはどこまでも広がる緑の田んぼ、遠くに霞むスカイツリー、風景の3分の2を占める空のスケールは素晴らしく雄大で。関東平野の広さを初めて実感できる、痛快なほど何とも言えない清々しい景色が広がっていました。
思わず、私「いいねー!」
彼女「うん。・・・晴れた日は向こうに富士山が見えるよ。」
景色を見ながらの会話はそれだけでしたが、その痛快な景色を見ながら、「ああ、これが彼女の終の棲家なんだな。」と心の中でつぶやきました。

お引っ越しには私の知らない深い事情もあるのかもしれませんが、このご夫婦は自分の人生の最終エンドに娘の傍を選びました。
高校時代から成績も良く優秀な大学を卒業した彼女は、仕事ではなく学生時代からの恋人だった、今のご主人様を選んであっさりと家庭に入ってしまいました。
その後の人生はまさに良妻賢母を地で行き、つつましくも強い意志で子育てに励み、3人のお嬢様を育て上げてきました。若いころからの彼女の願いはただ一つ、大切な人のために生きる、それが自分にとって最善の幸せなのだと信じて生きてきたのでしょう。まっすぐなその生き方は、まさにこの引っ越しの決断の時もぶれなかったのだと、心の中でさすが!と感心いたしました。
自分の信念を貫く彼女が、ここに引っ越してきてよかったなと、満足感いっぱいの気持ちでこの清々しい景色をこれからもずーっと見続けることが出来ますようにと、小さく胸の中でお祈りをいたしました。

引っ越しつながりで、同じ年代の違うカップルのお話をもう一つ。
知人からお聞きしたお話です。その知人と同じマンションに外資系で働く、年収2000万の(すごい!)独身のアラフィー女性が、ご高齢のお母さまと一緒に住んでいたそうです。犬のお散歩のときに知人は、お母様とお話をするようになり、それがきっかけでその女性ともお親しくなったそうです。
その女性は流行の最先端を身にまとい、プチ美容整形にも余念がなく注射、金の糸、レーザーあらゆる方法で美を追求していらっしゃったそうです。その方には彼がいるのですが、この彼がちょっとややこしい経歴で、2回離婚して3回目の奥様とは別居状態そのうえ子供もいるとのこと。また相当の資産家で1年に2回はパリとハワイに彼女を連れて行ってくれるそうです。ここからはちょっと笑ってしまいましたが、「彼女はきれいな方なの?」とお聞きましたら、「中の上」とのこと、よくわかりませんが、そういう事のようです。

ある日そんな彼女が突然今のマンションを売り払い、彼のマンションに引っ越ししてしまったそうです。
その仔細は、原宿に大きな高級タワーマンションの建設計画があり、遠くない未来に彼と原宿のそこに住むまでの間、今の彼のマンションで同棲ということだそうです。そしてご一緒に住んでいたお母様は、老人ホームにお引っ越しとのこと・・・勿論高級なサービス付きのホームとは思いますが、何んともやりきれなくお気の毒なお母様に対して惻隠の情を催します。彼女はちゃんとその原宿の高級マンションを手に入れることが出来ればいいけれど、男の心なんてわかりません。捨てられたらどうするのかしらと・・他人事ながら心配になりました。
たった一人のお母様を捨ててマンションも売ってしまう決断のすごさ・・・とその危うさに、同じ年代で、私も母と一緒に住む身なので、はらはらといたしました。

住む場所を変えるという事は新しい空気、環境、出会いなど、たくさんの期待と希望の扉を開ける人生の大きな転機です。
でも、私たちのような年齢を重ねた身には、大きな覚悟が必要です。それは人生の終着ゴールへ続く最終コーナーに手綱を切ったいう事にほかなりません。これで本当によろしいのか?向こうに見えているゴールまで無事に平和に行きつけるのか?とドローンのような機械を飛ばして、俯瞰して見極める術があったならば、よろしいのですが。なかなかうまくはいきません・・とぶちぶちと言っております私めも、いつもお酒を呑みながら楽しくお話しているお仲間のお1人から、「今度ご一緒に夕食はいかがですか?」などとプライベートなお誘いを受け、予期せぬハプニングにくらくらと悩むことしきり。
このような調子ではまだまだですね。よたよたと道の迷いそうな嫌な予感がいっぱいです。アブナイアブナイなかなか最終コーナーは曲がれないようです。