ラッピングコーディネーター 五味栄里先生によるラッピング講座。リボンの結び方、箱の包み方、季節に合わせたラッピングやエッセイなど

仕事での出来事


朝ベランダの結露した戸を開けると、冷気がさっと入り込み思わず身震いする季節になりました。ジングルベルの音さえ気ぜわしく、いよいよ師も走るという忙しい師走となり年末まで超多忙な日が続きます。今回は忙しい出張のさ中に出会ったいくつかの事柄をお話してみようと思います。

先日、品川駅のホームで電車を待っていた時のお話です。 向こうから電車が入ってまいりました、目的の羽田行きではないので、のんびりとやり過ごしておりましたところ、その電車の先頭車両が私の立っている前で止まりました。 すると運転手さんが運転台のカギをしっかりと抜いて、要するにオフの状態にしてからホームに降りてきました。オフにしたのでこのままどこかに行くのかしらと見ておりましたら、車両の前面にある行き先の表示を確かめ、もう一つの何かを指差しで確認した後、すぐにまた運転席に戻りました。 運転席に入ると、運転手さんは鍵を再び入れ戻し席に座ってから制帽、制服、ズボンの居ずまいを正してから、おもむろに大切そうな感じでハンドルを握り、背中をすくっと伸ばした美しい姿勢で、前方をきちっとにらむように見て、発車の合図を待っていました。 その一連の行動を見ていて、「この人運転が好きなんだなー、心を込めて運転しているんだな」と感じました。 運転手さんにとっては、いつもの普通の作業なのでしょうが、決してイヤイヤではなく、慣れている様子でもなく一つ一つの動きがぴしっと決まっていて見事な物でした。 どうせ乗るならこのような運転手さんの電車に乗りたいものだと見とれてしまいました。お客様の命を預かっているんだという気迫みたいなものが感じられ、すがすがしく凛としたものが彼の姿からオーラのように立ち上がっておりました。これこそプロだなぁと一つ一つの動作に、見惚れて感心することしきりでした。

仕事つながりでもう一つ、 福岡の帰りの飛行機の中のことです、羽田にそろそろ着陸する頃合いのことです。キャビンアテンダントも着席する時間で,CAさんたちはお互いにサインを送ってから着席するルールなのでしょうが、そのモンダイのⅭAさんはサインを待っているべきところ・・ 先に、そう・・音に例えるならば「どっかん!!」と言う感じで自分の席に大儀そうに斜めに座ってしまいました。 まるで「あーあ疲れちゃった!」という声が聞こえてきそうな按配の座り方でした。 座った恰好は足を開いて、両方の肘を伸ばしたまま、丸めた背中でつっかえ棒のようにして手の平を自分の膝の所で突き、まるでおじいさんが縁側かどこかでビールでも飲んでいるような格好で、お仲間からのサインを待っていました。サインが届いてシートベルトをした後がまたいけません。小鼻の横を盛んにすりすりとこすって、指の先についたものを床に落としているのです。その間、足は広がり、おまけに靴が片方脱げたままでした。でもしばらくはそのままで履き直そうともしないで小鼻のお掃除に没頭していました。 座り方が雑なので、スカートの端もめくれて裏地が出ていることもしばらくは気が付かない有様でした。 いやぁ驚きました!苦笑しながらもこんなⅭAさんもいるんだと、わが目を疑いました。

仕事に対する気持ちはやはり態度に出るものですね、仕事に慣れてしまうのが実は一番怖いことです。少々楽な仕事の仕方を覚えてしまうと、精神も体も楽な方に流されて行ってしまいます。仕事は自分で品質チェックしないと、気が付かない間にどんどんレベルが落ちてしまうものですね。人の心のうちは隠しても出てしまうものだとつくづく感じました。 嫌なものを見てしまったので、そのあとではあの凛とした運転手さんのことをなんだか慕わしく思い出してしまいました。

最後は長崎県の小浜のお話です。 先週、小浜(おばま)という雲仙岳の麓にある海岸沿いの小さな町に行ってまいりました。ホテルは海の前に建つ小さなホテルでベランダに温泉が付いていて、海を見ながら温泉に入ることが出来るちょっと素敵なホテルでした。仕事終わりの夕方の空は曇天で、晴れていれば海の色ももっと美しかっただろうなと、眺めていると見る見るうちに対岸の山の端に太陽が沈んでいきその荘厳なオレンジの美しさに圧倒されました。

却って雲が出ていたことが功を奏したようで、雄大なオレンジ色の模様が空いっぱいに広がり、夢中でスマホのシャッターを切っておりました。 時間にしたら15分くらいのエンターティメントでしたが、仕事先で、たまーにこんな幸せに遭遇します。 このような時にはいつも、まるで神様からの贈り物を頂いた気分になります。きっと私の仕事の神様がご苦労様!頑張っているねと、声をかけてくれているんだ。などと考えて幸せな気分を満喫します。神様は「えーっ!?知らないよ」なんておっしゃっているかもしれませが・・。

今、私はこの仕事が長く続いていることも、いつも周りの方たちに恵まれていることも、何よりも仕事が大好きだということなど、本当にありがたいことだと感謝の気持ちでいっぱいです。このような特殊な分野なのに、縁があって、偶然も重なり、私のような者でも私の仕事の神様は一生の仕事を与えてくださった、そのことに深い感謝を忘れないようにしなければいけないと、いつも自分に言い聞かせております。 また来年も素晴らしい夕日や、真っ青な空を見上げて、心からその邂逅に感謝できる時がきっとあることを信じて、今の気持ちを忘れないで頑張ります。 今年もエッセイをお読み頂きましてありがとうございました。