ラッピングコーディネーター 五味栄里先生によるラッピング講座。リボンの結び方、箱の包み方、季節に合わせたラッピングやエッセイなど

秘湯白骨温泉


梅の花が咲き始めると私の誕生日が近づいてまいります。
そのような季節に出かけた小さな旅を綴ってみたいと思います。

ちょうど梅が綻び始めたころ、上高地の近くの白骨温泉に、一泊して帰ってくるシンプルなバスツアーに友人と三人で行ってまいりました。お値段もお安く19,900円!
かの地はサイトで気温-12度。寒さ対策完璧の重武装のいでたちで参加しました。

バスは新宿を出て、途中、山梨のサービスエリアでランチのアツアツの「ほうとう」を頂いたのち、松本までは快晴の透き通るような青空の下、中央高速をひた走りに走って行きます。松本で高速を降り、道はやがて奥へ奥へと山を上り始めます。その頃には小雪がちらつき始め、道路のわきの雪が壁のようにだんだんと高くなっていきます。私達はいつの間にか雪国に迷い込んだような「不思議な国のアリス」…状態?となっていました。

しばらく雪の山道を走った後、大きな駐車場に入りバスが停まりました。すると運転手さんがジャンバーを羽織り、バスから降りてなにやら作業を開始。なるほど、積雪が深い山道のため、タイヤにチェーンを巻き始めたのです。さすがにプロ!20分で作業は終了。鼻と手を寒さで真っ赤にした運転手さんがバスに戻ってきて、再び発車オーライ。
バスはチェーンの「シャリシャリ」という、あの独特な音を響かせてもっと狭く、もっと急な、山道をさらに登って行きます。
対向車線から車が来ると、運転をしていないこちらまで手に汗握るような崖の淵すれすれに、ほんの少しの隙間を残して次々と対向車がすれ違っていきます。写真1そのようなスリル満点の山道は、いかにも山奥深く隠れた「いで湯」の雰囲気を否が応に引き立てて白骨温泉への期待はますます高まるばかりです。

やがて見えてきました!白骨温泉の雪に埋もれた旅館街。写真2「思えば遠くに来たもんだ・・」とステレオタイプのセリフの一言も言いたくなるような景色・・。
斎藤旅館は湯元と名乗るだけに、由緒ある老舗の名旅館です。写真3・4
雪の中で凛とした風格を見せて、不思議な国のアリスたちを優しく抱き留めるかのように腕を広げて待っていました。
中に足を踏み入れれば、そこは、うらうらと心地よい春の暖かさ「いらっしゃいませ!お待ちしておりました。」とさわやかな笑顔と挨拶に迎えられ、旅人達は、靴の紐をようようにほどくのでした。

もうもうとした湯気の中、湯は乳白色で時として水の色と重なり灰青のような美しい色をたたえて、入れば身体にじわーっと効く!効く!
疲れた体がその縛りから解き放たれ、手先、足先から溶けていくような・・
「うーっ・・ゴクラク、ゴクラクじゃぁ!」とのうめき声が、ついつい出てしまう女子三人は既におじさん風情、周りは女子だらけなんだから、まぁ許してください!

「露天風呂はあまりに寒すぎておすすめではありませんが、野天風呂はよろしいですよ」という先刻の仲居さんのお勧めの言葉を尊重して、屋根のある野天風呂に入ることに決めました。外への扉を開け目的の野天風呂までは10歩、たったの10歩なんですが‥これが極寒!…なかなか決心がつかず扉の前でおろおろと数秒。エイヤ!と飛び出すと、氷がぴたぴたと体に貼りつくような冷気に一旦はたじろぎましたが、このままでは凍死!とばかりに「ひやぁー!@×きやあーたすけて!!さっぶーー」と訳の分からない悲鳴を上げて野天風呂に飛び込みました。
死にそうなほどの大騒ぎの後、やっとじわじわとお湯の暖かさが身体に沁みわたってきて、落ち着いて外の夜の闇に目を凝らしてみると、周りを囲む大きな樹の黒いシルエットが風に揺れて、粉雪が渦を巻くように舞い散っています。その雪が時として顔や頭にかかり、火照った肌には、チリチリと針に突かれたような冷たさが気持ちよく、これこそ野天風呂の醍醐味!と、言葉もなく満喫しておりましたところ、先ほど洗った髪に手をやると・・・固い…???‥なんと!髪が凍っているのです!隣にいる友人も頭に巻いているタオルが凍って帽子のように形のまま取り外せる状態で大笑い。
非日常の時間の中のゆったりとした幸せを、笑いの声とともに皆が心に置きとどめたこの思い出が、私の誕生日の素敵な贈り物となりました。

帰りのバスを降り、新宿で友人と別れた後歩く高層ビル街の片隅に、一輪の梅がひっそりと微笑んでいるように咲いておりました。 東京に帰ればまた忙しい日々が始まります。