ラッピングコーディネーター 五味栄里先生によるラッピング講座。リボンの結び方、箱の包み方、季節に合わせたラッピングやエッセイなど
前回はパリの旅日記をご紹介いたしましたが、今回はその続編のお話です。
日本人は比較的安全で平和な日常を過ごしていますが、一旦海外に出ると、その状況が一変しているのに気が付かずに大らかに行動してしまうので、その地に住んでいる人から見ると、あまりに無防備でハラハラすることが多いようです。
私の知人はブラジルのホテルに着いてそのままの出で立ちで外出しようとしたら、呼び止められて『あなた、帰ってくるときには多分その指輪は指ごと無くなっているよ。覚悟して外出したほうがいいよ』と言われ、自分の無知さに恐れ驚いたと話しておりました。数年前のスペイン旅では、私はたまたま袖と襟にファーが付いているコートを着用しておりました。ところがどこへ行っても親切なスペイン人たちが『旅行者がそのようなコートを着て歩くのは危険だからやめろ。』とあまりに心配をしてくれるので、新しいコートを買うのも荷物になるし、どうしようかと考えた末、ファーの部分だけ全部内側に折りたたんで「襟なしで、おまけに袖短か」のモコモコで格好の悪いコートになりました。でもどうにか無事に帰って来ましたのもその忠告のお陰と今は考えております。パリでもマロングラッセ屋のおじさんとおしゃべりをしていた時に『パリでの交通機関は?』と聞かれて『便利なのでメトロ』と答えるとびっくりして『旅行者には危ないよ、気をつけなさい。』と何度も言われました。
さて、先日のパリ旅で、クリスマス前の土曜日のお昼過ぎのことでした。ホテル近くのオペラ座の周囲はたくさんの買い物客が繰り出していて混雑を極めていました。その中を私たち3人が歩いておりましたところ「あれ?どこかで見たことがある女性だなー。」と思いながら歩いていると、その女性は元女子アナの中村江里子さんでした。
確か、実業家の素敵なパリジャンと幸せなご結婚をなさって、現在はパリで暮らしているセレブな女性です。
中村さんは建物の入り口で同年齢くらいのキャリアウーマンらしい女性と話をしておりましたが、ベージュ系でまとめた品のよいパンツ姿で赤い靴を履き、いかにも洗練されたエレガントさが立ち姿からにおい立つようで、パリジェンヌをも凌駕するほどの美しさでした。
私はそのまま中村さんのそばを通り過ぎてから、彼女がいることを傍の友達に耳打ちしました。友達が振り返って見ているなーと思いながら、私はミーハーと思われたくないので、そのまま振り返りもしないで歩を進めて行きましたところ、そのお友達が私の横に来て、たった1~2分の間の驚く話を始めました。
私に言われてお友達が振り返ると、中村さんがこちらに向かって手招きしているそうです。お友達はまさか自分とは思わないで怪訝なそぶりで見ていたら、彼女の方から近づいて来て『あなたたち気をつけなさい、さっきからずーとスリがつけているわよ』とそっと忠告してくれたとのこと。
その話を聞いて思い当たるのは中村さんの横を通り過ぎた時に、やけに私の横にぴたりとくっついてくる顔色の悪い若い女子がいたことです。水色のポンチョみたいのを羽織って同色のニット帽をかぶっていたのも明確に覚えておりましたのは、ぴたりと横についている挙動が不審だったからかもしれません。私もバッグをしっかりと抑え直した記憶がありました。その後大騒ぎでバッグの中を調べましたがお陰で被害は何もなくほっと胸を撫で下ろしました。
パリは素敵な街ですが、やっぱり異国の街です。私たち異邦人にとっては知らない間に危険がいっぱい牙をむいて襲い掛かっている町なのだと、はっきりとその怖さを悟りました。それにしても、あの中村さんがわざわざ私たちを呼びとめて忠告をして下さったとは!よほど目に余る無防備な状態だったのでしょう。きっと同郷のよしみで教えて下さったのだと感謝の気持ちでいっぱいです。
そのご忠告のお陰で私たちはパリにいる間は声を掛け合って、前後左右を警戒するようになり、パリでのセキュリティーレベルは著しく向上しました。感謝 感謝
海外に出ることは異文化に触れる素晴らしいチャンスなのですが、その異文化も有り難くないものもたくさんあるわけです。平和ボケの私にとってはテロといい、スリの女子といい、まさに異文化の洗礼をしっかりと受けた経験でした。どうして人間は平和に生きていけないのかなぁ?と悲しい気持ちになりますが・・・よくよく考えると東アジアにある私達のこの国にも、国と国を隔てる幕の隙間から不穏な空気が、知らない間に流れてきているのかもしれませんね。「平和ボケ」なんて悠長なことを言っていられなくなるのかも・・・
日本がいつまでも安全で、そして人々の気持ちに善意が満ちている国であってほしいと、願うばかりです。